解剖学の方向用語:具体例と練習問題で学ぶ位置関係
腕を曲げて手首を胸に近づけても、手首は肘より遠位にあります。「遠位は遠いほう」と覚えるだけでは、ここで迷ってしまいます。基準になるのは、腕や脚が体幹につながる付け根です。
解剖学の方向用語は、ある構造が別の構造に対してどこにあるかを表します。まず比較する2つの構造を挙げ、次に基準を確認してから、用語を選びましょう。ここで扱う10の用語は、頭から足への方向、体の前後、正中線、四肢の付け根、体の表面という5つの基準で位置を表します。

まずは解剖学的正位を思い浮かべる
正面を向いてまっすぐ立ち、両足を平行にして、つま先を前に向けた人を想像してください。腕は体の脇に下ろし、手のひらを前に向けます。左右は、その人自身から見た左右です。向かい合っている場合、その人の右側は、あなたから見ると左側にあります。
座っていても、横になっていても、手の向きを変えていても、この姿勢を基準にします。解剖学では、部屋や紙面の向きが変わっても、この標準姿勢をもとに位置を説明します。OpenStaxでも解剖学的正位とこの原則を説明しています。
図で試してみましょう。額はあご先より上方にあると書き込み、その紙を上下逆さまにします。紙面では額が下になっても、解剖学的な位置関係は変わりません。
10の用語を具体例で確認する
最初に覚えたいのは、次の5組です。意味が似ているように感じたら、何を基準にしているかを見比べてください。
| 用語 | 基準と意味 | 位置関係の例 |
|---|---|---|
| 上方(Superior) | 頭に向かう側 | 額はあご先より上方にある。 |
| 下方(Inferior) | 足に向かう側 | あご先は額より下方にある。 |
| 前方(Anterior) | 体の前に向かう側 | 胸骨は脊柱より前方にある。 |
| 後方(Posterior) | 体の後ろに向かう側 | 脊柱は胸骨より後方にある。 |
| 内側(Medial) | 体の正中線に近い側 | 鼻は右眼より内側にある。 |
| 外側(Lateral) | 体の正中線から遠い側 | 右眼は鼻より外側にある。 |
| 近位(Proximal) | 四肢に沿って、体幹につながる付け根に近い側 | 同じ腕では、肘は手首より近位にある。 |
| 遠位(Distal) | 四肢に沿って、付け根から遠い側 | 同じ腕では、手首は肘より遠位にある。 |
| 浅層(Superficial) | 体の表面に近い側 | ふくらはぎを覆う皮膚は、その下の筋より浅層にある。 |
| 深層(Deep) | 体の表面から奥にある側 | ふくらはぎの筋は、それを覆う皮膚より深層にある。 |
最初の8語の定義はNCI SEERの解剖学用語解説に基づいています。浅層と深層は、Open RNの方向用語の節でも説明されています。近位と遠位は、起点を基準にして四肢以外の構造にも使えますが、ここでの練習は腕と脚を対象にします。
それぞれの文で、比較する部位の順序を入れ替えてみましょう。額があご先より上方なら、あご先は額より下方です。比較する2つの構造をそのまま残し、関係を逆にします。
近位と遠位は、腕や脚に沿って考える
片腕の部位を、次の順に簡単に書いてみてください。
肩 → 肘 → 手首 → 指先
腕に沿って肩へ向かうのが近位方向、指先へ向かうのが遠位方向です。手首は肘より遠位にあり、指先より近位にあります。比較問題で「手首は遠位にある」とだけ書いても、何と比べているかが分かりません。もう一方の構造も必要です。
次は脚で考えます。
股関節 → 膝 → 足首 → 足の指先
「膝は足首より___にある」の空欄を埋めてみましょう。脚の付け根に向かってたどると、答えは近位です。逆に言えば、「足首は膝より遠位にある」となります。
ここで膝を曲げてみてください。それでも足首は膝より遠位にあります。脚に沿った部位の並び順は変わらないからです。姿勢によって直線距離が紛らわしくなるときは、この順番で考えましょう。
内側と外側は、正中線から考える
正面から見た人体の輪郭を描き、体の中央を縦に通る線を引きます。それぞれの部位を、この正中線との位置関係で比べてください。たとえば右耳は右眼より外側にあり、右眼は右耳より内側にあります。
「近位は近いほう」「内側は近いほう」というメモだけでは不十分なのは、このためです。何に対して近いのかという、次の基準が抜けています。
- 近位を考えるときは、四肢に沿って付け根に向かいます。
- 内側を考えるときは、どちらが体の正中線に近いかを比べます。
「足首は、脚に沿って股関節から遠くにあるので、膝より内側にある」という説明は間違いです。この理由が示しているのは脚の付け根との関係なので、適切な用語は遠位です。正中線からの距離については何も説明していません。正しくは「同じ脚では、足首は膝より遠位にある」となります。
同じ位置関係を、複数の用語で表せることもある
解剖学的正位では、鼻の先端は右の口角に対して上方にあり、同時に内側にもあります。上方・下方は頭と足を結ぶ方向の位置を表し、内側・外側は体の正中線からの距離を表します。同じ2つの部位について、どちらの説明も成り立ちます。
そのため、「AはBに対してどこにあるか」という問題は、使う用語の組を指定しなければ、複数の答えが成り立つことがあります。自分で練習用カードを作るときは、用語の組を指定するか、「2つの位置関係を答える」と明記しましょう。
深さと前後も分けて考えてください。背中の皮膚は体の後面にありますが、その下の筋に対しては浅層にあります。ここでの問題は、一般的な人の解剖学的正位を基準にしています。脳に特有の方向表現や、動物の体の向きについては、それぞれの基準を確認する必要があります。
解剖学の方向用語:練習問題
表を隠し、各問に用語と短い理由で答えてみましょう。腕を曲げた問題でも、人の標準的な解剖学的正位を基準にしてください。
- 上方・下方のどちらかで答えてください:あご先は額より___にある。
- 前方・後方のどちらかで答えてください:胸骨は脊柱より___にある。
- 内側・外側のどちらかで答えてください:左耳は左眼より___にある。
- 近位・遠位のどちらかで答えてください:同じ腕では、肘は指先より___にある。
- 近位・遠位のどちらかで答えてください:同じ脚では、足首は膝より___にある。
- 浅層・深層のどちらかで答えてください:ふくらはぎの筋は、それを覆う皮膚より___にある。
- 「右眼は鼻より外側にある」を、鼻を主語にして言い換えてください。
- 腕を曲げて手を肩に当てると、手首は肘より近位になりますか。
- 右の口角に対する鼻の先端の位置を、2つの方向用語で答えてください。1つは正中線を基準に、もう1つは頭から足へ向かう方向を基準にします。
- 「手首が胸の近くにあるので、手首は肘より近位にある」という説明を直してください。
解答と理由
- 下方。 あご先は額から見て足の方向にあります。基準は、体の頭から足へ向かう方向です。
- 前方。 胸骨は脊柱より体の前側にあります。この問題で比べるのは前後の位置で、皮膚からの深さではありません。
- 外側。 左耳は左眼より正中線から遠くにあります。どちらも体の左側にあっても、互いに内側・外側の関係を表せます。
- 近位。 同じ腕に沿って見ると、肘は指先より付け根に近い位置にあります。指先から肩に向かってたどると確認できます。
- 遠位。 同じ脚に沿って見ると、足首は膝より付け根から遠い位置にあります。逆に言えば、膝は足首より近位にあります。
- 深層。 筋はその皮膚の下にあります。逆に言えば、皮膚は筋より浅層にあります。
- 鼻は右眼より内側にある。 2つの構造を両方とも残し、比較する順序と方向用語を逆にします。
- いいえ。 手首は肘より遠位のままです。腕を曲げると姿勢は変わりますが、腕に沿った部位の並び順は変わりません。
- 内側と上方。 鼻の先端は右の口角より正中線に近く、頭の方向にあります。2つの答えは、それぞれ別の方向を説明しています。
- 同じ腕では、手首は肘より遠位にある。 特定の姿勢で胸に近いかどうかは、ここでの基準にはなりません。腕の付け根から順にたどって考えます。
繰り返す間違いを、短いカードにする
各問で書いた理由を見て、何を練習すべきか判断しましょう。定義を忘れていたなら、短い定義カードを作ります。基準を取り違えたなら、「腕を曲げても、手首が肘より遠位にあるのはなぜか」という比較のカードが向いています。裏面には「腕に沿った部位の並び順が変わらないから」と書きます。問いを絞る方法は、より良いフラッシュカードの作り方で説明しています。
既成のカードを使いたい場合は、31枚の「Anatomical Directional Terms」デッキもあります。このデッキの内容は英語で、ここで紹介した10の用語を扱っています。必要に応じて、定義を答える練習、問いと答えを逆にして思い出す練習、基本的な位置関係の確認に使えます。
言葉で答えられるようになっても、練習はまだ続きます。授業で使う名称表示のない図や模型で2つの構造を指し、答えを確認する前に、その位置関係を説明してみてください。用語はすぐ出てくるのに部位を見つけられないなら、次の学習では空間的な位置をつかむ練習に時間を使いましょう。解剖学のフラッシュカード活用ガイドでは、名称を答える問題や実習試験の準備も扱っています。